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あんなぷるな道中膝栗毛

13.山賊に怯える海賊
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 チョムロンの宿を旅立ち、村筈れのコル迄登るとジヌー温泉と
ガンドルンの分岐になる。
それよりガンドルン方面への道を少し下ると、右への分岐が、又現れる。
ここで我々は、十日間旅を供にした中野氏に別れを告げた。

 彼はここからガンドルンを抜け、ポカラへ戻ると言う。 
我々はこのままジョムソム街道へ向かう為、ここから横道に
それて行くのである。

 十日間の旅だったが、この中野氏に出会えて、スーパーガイドを
して貰い、楽しい時間を過ごす事が出来た。
又、温泉、宿の状況、宿の利用の仕方、近年の変わり方等々、
本当に色々と教えて頂いた。
いくらお礼を言ってもキリが、無いのだが、又ポカラで再会する事
を約束して別れた。

 さて、本日の目的地タダパニ迄は、尾根の中腹を延々とまいて
行くのだが、このコースはアンナプルナ内院(ABCへのコース)
と、ジョムソム方面(アンナプルナ外周)の両方を行く人達だけが、
通る道なので、 トレッカーの数もめっきり少なくなる。
おかげでのどかな山歩きが出来るコースなのである。
人通りも少なく、民家の庭先を通過したりするのは、生活が
垣間見えて楽しいものである。

 途中お腹をこわしたカナダ人の女性が、休む度に、トイレに
駆け込む姿は、気の毒だった。
しかし女性一人(ガイドは一人付いている)で、このコースを
歩いているのは、行動力があるなぁと思った。

 又この旅で気附いたのだが、カナダ人と韓国人に良く出会う。
勿論、世界中のトレッカーがいるのだが、今はカナダと韓国の
両国ではトレッキングブームの様である。

 途中やたらと寄附金の箱が、目についた。
道路を作るとか、学校を建てるとか、色々書いてあるのだが、
庭先に建っていてどう見ても、
家の収入という感じである。
尤も我々の歩いている道は、彼等の生活道路なのだ。
通行料を払って当然とも思う。
通行の少ない、こいいうコースは泊まり客も少なく、生活も
大変な筈である。

 寄附金箱の横には、ノートが置いてあり、寄附した金額を、
書く様になっている。
皆何千ルピーも寄附している。
これは中野氏から聞いて知っていた。
皆後から0を1つ2つと付け加えるらしい。
それを見た旅行者が数字に準じて多めの寄付をしてくれる様にとの
彼等の苦肉の策の様だ。

 そんな生活を感じ乍らも、小川を渡りいよいよ登りとなる。
これからは、ひたすら登り、登り切った峠が今夜の宿ダダパニ
なのだ。
ここからは民家も、もう殆ど無くなった。

 途中大分登った所に、家具屋さんがあった。
この辺は森も多く、材料は手に入りやすいと思うが、出来た家具を
人やロバが運ぶと思うと、
「何だか凄いなぁ」と思う。
そんな事を思い乍ら、暗い森を進む。

 そう言えば、このあたりで数年前山賊が出て日本人ツーリストが、
襲われたと、ガイドブックに書いてある。
本当に出そうなムードなのだ。
山本氏は、

 「山賊が出たらどうしよう」

と、心配している。
髭ボウボウで真黒いサングラス、頭にターバンを巻き手には木刀の
様な杖を持っている。
山本が一番それっぽい。
少年の頃テレビで見た“怪傑ハリマオ”にそっくりなのだ。

 あの番組は日本では、正義の味方だったのだが、実はあれは実話で、
東南アジアを荒らし回った海賊と聞いた事がある。
海賊スタイルで山賊に怯えて心配している山本は、何だか微笑ましい。
しかし誰も通らない森で、実は私もドキドキしていたのだ。
途中ロバ隊の一行に一度だけ出会った。
その後も暗い森をひたすら登っていると、突然視界が開け、標高2550m
の峠、タダパニに到着した。

 峠には十軒程のゲストハウスが、猫の額の様な場所に隣接している。
そのうちの一軒にお世話になる事にした。
路端では、所狭しとおみやげが並べられ、とても活気づいている。
この峠の上で皆一息ついて休む気持ちが、良く分かる。
今日は体力、精神力、共に疲れたのか、食事の後早めに床についた。

峠の夜_タダパニ

 夜半トイレに起きた時に、庭に出たのだが2550mのこの峠の上に
7000を越える、アンナプルナサウスやヒウンチュリが、
星空の横で履い被さる様に、静かに聳えていた。
中庭の石畳の上に大の字になって、20分程も見入ってしまった。

 素晴らしい夜に感謝し、冷え切った躰でベッドの中へ潜り込んだ。

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