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旅の空の下で

6.真夜中の取り引き
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 廃品回収という事をし乍ら、
日本の山を、縦断していた若かりし頃、
旅の途中青森には、一月程滞在した、
といっても当然、車中泊である。
青森ではいつも、市内を一望できる“雲谷(モヤ)”
という所で泊まっていたのだが、
たまには気分を変え様と、街迄おりて来た。

 途中あすなろ山荘(山の店)へ寄り、駅前いちばにて
食糧特につまみ等調達して港へ向かう。
港では、もう夕刻の為人は誰も居ず、
もろ岸壁に車を横付けする。

 いつもの事だが食事も終わり1時間もすると暗いせいか
(電気が無いので)3才の長男と妻は、
寝袋に入って寝てしまう。
私はその後も、チビリチビリと(酒)やり乍ら
久々の港や波等眺めてい
た。

 時間はよく覚えていないが、夜も大分深まった頃、
一台の黒塗りのベンツが、やってきた。
そして私の車の少し前に、停めたのである。
 中からは、最近ではあまり見かけないカンカン帽
(私の子供の頃流行った)を、被った男性が、
降りて来た。一般の人からは程遠く、
どう見ても“ヤクザ”といった感じなのだ。

 そして何もない海をジッと見詰めている。

 私は車の中から静かに見ていた。車内は暗いので、
人が居るとは思わなかったのであろう。

 少しすると、男が見詰めている沖から
一台の舟が、やってきた。
舟は男の前の岩壁に着くと、
一人の船長とおぼしき人が、上がってきた。
そして20センチ程の包みを、ヤクザ風の男に渡した。
ヤクザ風の男も、その船長に同じ位の包みを渡した。
 船長はすぐに舟に乗り込み、沖へ戻って行った。
ヤクザも(ここで断定する)車に乗り込み
すぐに居なくなった。

 数十秒の出来事だったと思う。
言葉は一言も発せず、物を交換しただけだった。
私は途中、やっと状況に気付き、
見つからない様に静かに頭を下げたのだった。


 彼らが立ち去ってからも、胸のドキドキは、おさまらなかった。

 「あれは何だったんだろう」

と、思うが、麻薬の取り引き以外考えられない。
(今でもそう思っている)
 そんな事を思い乍ら、舟が立ち去った先を見ると、
薄モヤの中、沖には巨大なタンカーが、停泊していた。

              1983年 秋

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