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旅の空の下で

8.煙草を買いに
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 その年友人4人で、北アルプスを縦走した。
本来の予定では、南アルプスを歩く予定でいたが、
友人が小屋番を勤める、赤石小屋が、もう小屋を
閉めるというので、急拠北アルプスに変更したのだ。

 何処を歩くと別に決めた訳ではないが、初日は
中房温泉から入り、とりあえず燕を目ざす。
 皆結構、オジサン、オバサンなのでこの位が丁度良い。
男性3人、女性2人というメンバーである。

 翌朝は、燕を往復、その後女性一人だけお店があるので、
下山していった。
メンバーの中に喫煙者が二人いて、その内の一人が、
煙草がきれたのでと、燕山荘へ煙草を買いに行った。
しかし売り切れとの事で戻って来た。

 元々何処へと決めていないので、
 「ではとりあえず大天(大天井岳)迄、煙草を買いに行こう」

 と、出発する事になった。

 久々の山歩きは、天気にも恵まれ、とても気持ちが良い。
大天の小屋にも煙草は無く、西岳を目指す事にした。

 大天から槍の“喜作新道”は、
展望も良くダイナミックなルートで気持ちが良い。
その日は西岳でテントを張る。

 ここにも煙草は無かった。

 翌日、朝一の大下りの後、東鎌尾根を槍へ向かう。
 槍ヶ岳山荘で、一息入れ、頂上をピストンする。
流石に人の多い所と見えて、
登り下りが一方通行になっている為、
岩場であるが、快適なコースである。

 頂上は“北アルプスの交差点”と表されるだけあって、
素晴らしい展望である。
 普段、人の多い所は苦手とあって、
槍や穂高へは、足を向けた事が無かったが、
良い所だから人が多いのだと実感する。

 小屋迄戻り、今日は無理せず(いつもだが)泊る事にする。
今日も煙草無し!

 翌日は、西鎌尾根を双六(スゴロク)へと向かう。
途中、硫黄岳が火山の趣きで、迫力がある。
そして、鷲羽岳が美しい
山容で、目を引く。
 双六岳は以前、春スキーで訪れた事がある。
“テレマークスキー”を始めた頃で、弓折岳の稜線に、
二晩程幕営し、双六沢等を、滑った
と記憶する。
 今回は夏なので、ちゃんと、小屋の幕営指定地に、
テントを張り泊った。

 翌日は、双六、三俣蓮華を越え、鷲羽岳を登った。
頂上は眺めも良く今回自分達が歩いたコースが、一望できる。
そんな頃

 「雲ノ平へ行ってみないか!」

と、いう意見が出た。その下には温泉もあるという。
その一言ですぐに決まり、雲ノ平へ向かった。

 雲ノ平に泊まった翌日、黒部の源頭にあるという
“高天ヶ原温泉”をめざす。
 高天ヶ原山荘に、許可を得て、下にある温泉に入るのだが、
無料だという。
 河原の脇に湧出する露天風呂だが、きれいにしてあり、
又久々の温泉であった。
心広い小屋の方に唯々感謝する次第である。

 現在、“秘湯を守る会”等というものがあるが、
大概は、車で行ける温泉である。
何処から行っても、数日かかる“高天ヶ原温泉”は、
本当の意味で“秘湯”だと思う。
手間暇のかかるこの温泉は、
テレビ等に映る事も殆ど無い。

 帰りの登りで、一汗かくのだが、
今日は温泉でノンビリさせて貰った。
山の中の休養日といった感じである。

 本日も雲ノ平で泊まる。

 翌日は気分もあらたに出発する。
途中、水晶の小屋は、山にへばりつく様に建っている。
天水だけでやっている小屋は、
昔のおもかげが有り、迫力もあった。

 野口五郎の小屋は、渇水の為閉まっていた。
 この冬、雪が少なかったのか、今回のコース、
水不足で苦労している小屋が、多かった。

 その後、烏帽子迄、足を伸ばすのだが。
ここはやっていた。
 そして何よりも“煙草”を置いていた。
酒も、昨日で切れていた為
夜何度も酒を買いに、小屋を往復した
(テント場から小屋迄少し距離があるのだ)

 次の日、テントを畳むと、その儘“ブナ立”を下った。

 結局、烏帽子も登らず(水晶も)、
唯、煙草を買いに、歩いている内に、
北アルプスを周遊した山行だった。

 まぁ、大体がいつもこの様な事である。

            1995年頃 夏

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